きゆさだのブログ

ワイルドサイド抜け作

月報 2017/12

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

書いたもの

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ベストディスク、安井さんとクロスレビューtofubeats『FANTASY CLUB』をアニメ『輪るピングドラム』の話と絡めて。相当丁寧に分解できる力量がないと抽象的な話は難しい。題材選びでも技術面でも課題が多く残った。勉強になった。

行ったライブ

  • 6 スカート/トリプルファイヤー @梅田シャングリラ
  • 15 Easycome/Keens/Crankbait./ムノーノ=モーゼス @神戸SLOPE
  • 16 ギリシャラブ/吉田ヨウヘイgroup @京都ネガポジ
  • 24① 吉田省念(トリオ編成) @レコードフェア京都(高島屋京都店)
  • 24② Oliver/guruGURU/KONCOS/世田谷ピンポンズ/ベランダ/ゆ〜すほすてる/LADY FLASH @バレーボウイズレコ発サーキット(京都VOXhallなど)

 残業がややあったのと年末帰省するのとで少なめ。15日のEasycomeと16日の吉田ヨウヘイgroupが素晴らしく、この週は幸せだった。

よく聴いたやつ

よく読んだやつ

 BEASTARS、案の定ハマった。考えれば考えるほどディストピアに思えてくる世界設定に、中二以来のダークファンタジー心をくすぐられる。そしてレゴシがかわいい。長い記事を後でここに書こうと思うけど、ズートピアを見返すのが先だ。

 街場の文体論は先月借りたやつでまだ読み途中。30%くらい。講義形式で読みやすいので年末年始のうちにガッと進めたい。冒頭の課題「私の周りで一番粗忽な人」はよく考えたけど自分以外思いつかなかった。ネガキャンとかじゃなく、まじで。 

雑感

 月頭にSpotifyに入った。アルバム1枚終わったあとに自動でプレイリストが再生されるのがいい。いいけど、邦楽のアルバムの後には邦楽しか流れない、更に同じアルバムの別の曲が流れることもある。収集したデータを元にそうなってるのだと考えると複雑だ。チャートやプレイリストがまだあまり見れていないのでこれから使いこなしたい。

  25歳になった。四捨五入すればアラサーの域、ついに来るこの時を実は春くらいからずっと覚悟していた。心の準備だけはバッチリで、誕生日前日にネットカフェの受付でうっかり「25」と書きそうになったくらいだ。同年代が結婚したり転職したり仕事が軌道に乗ったりしていて、自分もいろいろと今後を考えてしまう。自分がどういう人間になるのか、自分で選んで決めなければならない。

  スピッツの出るレディクレに行かなかった29日、シネ・ヌーヴォに3回目のハッピー・アワーを見に行ってイベント納めとした。その足でなんばからバスに乗って帰省した。同じ映画を間隔をあけて3回見るということは今後もなかなかないだろうな。映画は音楽や漫画ほどリテラシーに自信がないのだけど、俳優さんの表情、間の取り方、カメラの動きなどなど、2回目よりもしっかり見て感じ入ることが出来た。とても充実した時間を過ごせた。

新年の抱負

  • たくさん書く
  • 読書ペース加速
  • 年度明けて閑散期に入ったら英語の勉強をはじめる
  • 大学時代のコミュ力を取り戻す…

ベスト・アルバム2017

今年作編

番外

 tofubeatsFAMTASY CLUBについての論考はネット上にものすごくたくさん書かれている。どういう層にこのアルバムが特に響いたのかがはっきり現れている。私もその一人です。対して各音楽メディアのベストにあまり挙げられていないのはまず、人文・思想界隈でのリリックの評価が割合を占めているからかなと思うのが一つ。そして、ヒップホップと歌謡曲の境目にある音楽の扱いがいよいよ難しくなってきているのが一つ。tofubeatsほど際どい立ち位置のアーティストが今後どれほど出てくるかわからんけど、少なくとも減るよりは増える可能性の方が高そうだ。だから、ミューマガで歌謡曲からもヒップホップからもあぶれているのに言及はされている、という完全宙ぶらりんな扱いには、かえって今後を感じてワクワクした。爺さんになったPUNPEEが言うように、ラッパーが朝の顔になる時代が来れば、そいつの出すアルバムはどっちに入るんだろう。

 あまり他所で挙げられているのは見かけないけど、特にリリックについてはシャムキャッツFriends Again』も頑として譲れない。正直Coyote」にまつわるタナソウさんのツイート以上のことは言えないのだけど、社会の分断の手詰まり感を、失意や諦念を避けながら、ここまで写実的に描いたアルバムは他にないと思う。「Coyote」以外で言えば、「Funny Face」の“もう一回 ふざけたら ただじゃ おかないよ”、“どうしたいってちゃんと聞いてみても/あまえて くるなら”という一瞬ヒヤリとする歌詞。猫の話にカモフラージュされてこのラインが入ることで、「些細な日常の愛おしさと、それだけ考えて過ごしたんじゃ済まされない状況」がきれいに両立した本当に絶妙なアルバムだと思う。「日常、素晴らしいよね」で済ませないことにはメンバーもかなり気を使っていたようで、社会へのまなざしを忘れていないことが1曲目2曲目の時点で示されているからこそ、3曲目の名曲「Four O’clock Flower」になおさら感動させられる。この3曲目がゆうちょのCMに起用されたのも納得で、とても合っていると思う。近い立ち位置でやや諦念を含んだものとして橋本絵莉子波多野裕文を挙げた。特に「飛翔」「トークトーク」「アメリカンヴィンテージ」あたり。

 “社会へのまなざし”という言葉は『FANTASY CLUB』のレビューを書いたときにも意識していた(書いたかも)。今年の俺的一言はこれになるのか。それで言ったら、スピッツ「歌ウサギ」も草野マサムネの社会へのまなざしが反映された、彼らとしてはかなり異質な曲だった。2番サビ“敬意とか勇気とか生きる意味とか 叫べるほど偉くもなく”の二行は、おそらく、強いオピニオンを持たない歌が評価されにくい状況に対する草野マサムネの意思表明だ。とりわけブラックミュージックには大事な要素である“敬意”を入れる思い切りがすごい。論考の方にもそう書けばよかったのだけど、ちょっと思い至るのが遅かった。

過去作編

 出遅れて後追いで聴いているものと、今聞くとなんとなくいいなと思えるもの。スピッツは、シングル中心の30周年ツアーのセトリに『惑星のかけら』から3曲も入れた。スピッツのメンバーのモードはその時々の新曲よりも、ライブのセットリストやカバー曲のアレンジに現れることが多いと思う(セトリの叩き台決めてるのは坂口さんらしいけど)。ギターのディストーションへの凝りようや「波のり」の比較的思い切ったリアレンジを聴くにつけ、やっぱりポスト・パンクグランジ回帰なのかなと思う。そっからイギリスのグランジリバイバルへの意識を感じたりなんかして。

 トッド・ラングレンとかNRBQとか、NAVERまとめとかで特定のアーティストの代表曲が並べられたページを見ると、自分がいいと思うものが挙がっていないことがままある。そしてスカート澤部さんがそれをラジオでかけたりする。今後を占う意味でもこういうアンテナは大事に研いでいきたいと思う。

あいさつ

 今年関わってくださったライター講座の面々やミュージシャン、各メディアの方々、お世話になりました。そして一つでも記事を読んでくれた方、ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。

 来年はもっと本を読みたい。映画も見たい。インプットの量を増やしたいのに今の生活サイクルだと睡眠時間を削るしかなく、ちょっと悩んでいます。時間の使い方が効率的でないのは明らかなんですが、それは人生半分ぐらいずっと思いながらも出来ていない事なわけで。なので現状図らずも、ただ“決意を新たにする”だけになってしまう時がよくあります。それは一番無意味なので、どうにかして具体的かつ強制的に自分を駆り立てられるような作戦立てをしなければならないんですが。極論しか思いつかない。

 夏に気合を入れてスピッツをやったあたりからコンスタントに書く準備が出来て、それから一応、およそ月1本のペースで続いています。あれこれ考えすぎていつも行動が遅くなる性分なので、来年はネガティブなことをあまり考えず、場数を増やしていくことを第一にやっていきたいです。

月報 2017/11

書いた記事

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ムノーノ=モーゼス『シーブリーズ』を書いてます。2月にミニアルバムが出るそうです。このシングルでは見えなかったバンドの振れ幅ががっつり出た1枚になることと思いますので是非。

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9月頭のライブレポートを2ヶ月越しで掲載。
長いライブレポートを書くのは本当に久しぶりだったので勉強になりました。
校正段階で詩野さんに褒めていただき自信がつきました。

行ったライブ

  • 04昼 さとうもか@クレド岡山前スペース
  • 04夜 senoo ricky/The Time Travellers/竹上久美子 @岡山城下公会堂
  • 11 中村佳穂 @あしやつくる場(芦屋市立美術博物館前庭)
  • 13 Temples @大阪BIGCAT
  • 19① 中村佳穂BAND@心斎橋SUNHALL
  • 19② カーネーション@梅田シャングリラ
  • 23 Easycome/ナツノムジナ/ベランダ @京都GLORY
  • 24 タカハシヒョウリ/Ryo Hamamoto/ゆーきゃん/よしむらひらく @下北沢 風知空知
  • 25 uIIIIn/黄倉未来/左右/SOSITE @下北沢Laguna
  • 30 入江陽/さとうもか/本日休演 @京都ネガポジ
 19日の2つがどうしても選べずハシゴをした。のちのライター講座で詩野さんが「今夜はアバンギルドとメトロのハシゴで気持ちは磔磔なのよ(念を送るジェスチャー)」と言っていていいなあと思った。今後ダブった時に使わせていただきます。
 よしむらひらく氏ラストライブ。弾き語りで見たの自体えらい久しぶりだった。リクエストを募っていたが「つきのうみ」ほか何曲か"できない"曲があるとのことで丁重に断っていた(いつものことらしい)。ここまで来ても奥手で声は出せなかったけど、出していたとしても私が死ぬほど大好きな「tokyo2012」は断られていたような気がする。ああでも「スイートチョコレートラバーズハイ」はお願いすればよかったかも。未練があるからいくらでも待てる。なくても待てるけど。

よく聴いたやつ

  • 小坂忠『ほうろう』
  • NRBQ『Tiddly Winks』
  • 吉田ヨウヘイgroup『ar』

 過去作全部掘り返す勢いでNRBQにはまっている。こんなにハマるなら岡山の某レコ屋にあったやつ買っとくんだったな。ティンパンアレイ系ももっとちゃんと掘りたい。

よく読んだやつ

  さんさん録は紙島から借りたやつで、他にも何冊か借りて消化しきれてないのにこればかり読み返している。10年前ちょい前の現代なのに、ちょくちょく今ホットなネタが出てくるので不思議な感じがする。あとがきを「見ていてください!」で締めた後の次作が『この世界の〜』だというのもアツい。基本的な主題は『この世界の〜』と通じるのだけど、読み口が軽い分何度も手に取ってしまう。あと乃菜がかわいい。

 エクリヲはまだ読み終わっていないのだけど(おせえ)、同人批評誌というものを初めて買って読んで勇気付けられている。卒論で扱った蟲師もののけ姫の比較ネタをもう一度整えて出したい欲にかられている。

所感

 月末に久々の東京に行った。中日の昼間に何店舗かレコ屋を回ったら安くてびっくりした。12インチ200円って。しかし一番の収穫は、円盤でごそっと買った岡山インディーの自主制作盤数枚かもしれない。泊めてもらった妹の家で豊井さんのツイキャスを聴きながらゼルダBOWをやったのも良い時間だった。行きも帰りも昼行便のバスにしたことは話した人全員にウゲエと言われたが、私にはとても合う手段だった。夜行で眠りが浅くなることもないし、単純に高速道路の景色が本当に好きだし、着いたあとの夜が元気でいられるのもいい。元気すぎてレコード数枚入ったスーツケースを引いたまま茶屋町のでかいジュンク堂に寄り、『我らコンタクティ』ほか何冊か買って帰った。それで見事にクタクタになったけど、今品薄らしいので良い選択だったと思う。

 茨木のへんに引っ越したい。もうすこし壁の厚い部屋に住みたいのだけど、阪神間のJR阪急間はグレードが高すぎる。ついでにあえて通勤時間を伸ばすことで、強制的に読書時間を設けるというのを試してみたい。京都のライブにもだいぶ行きやすくなる。なぜ高槻ではなく茨木なのかというと、新快速の満員電車が嫌だし(快速も大差ないかもしれんが)、あと駅前にイオンがある。イオンがあると聞くと俄然親近感がわく。 

月報 2017/10

書いた記事

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結成30周年の節目にハマり直したスピッツの論考です。自由研究の感覚で夏じゅうずっと取っ組み合っていました。
基本関西モノを取り扱うki-ftですが、去年講座に竹内さんに来ていただいたというギリギリの関連度で載せ(させて頂き)ました。
ありがとうございました。

行ったライブ


 休憩や途中抜けで見れてないアクトは抜いてある。しかし行きすぎた。財布がやばい。おかげで充実した月だったけど、金の糸目はつけなければ生存がやばい。

 stars onはやっぱり特別。ミナホに行けないのは残念だけど、こればっかりは仕方ない。脂乗りまくりネバヤン、黄金の夕焼けを味方に非現実世界をつくるDAN、久々に見たらすっかり次のベクトルが定まっててギョッとしたceroが白眉だった。bonobosの新譜といい早いとこフューチャー・ソウルをちゃんとさらった方がいいかもしれない。来年は10周年だけど、隔年出演の常連ceroはどうするんだろう。「大停電の夜に」がない10周年なんて!

 台風の中土日ともライブだったのはマジで大変だったが楽しかった。あまり関西に来ないらしい黄倉未来氏の“気の触れたフリ”が見られて良かった。片想いも、stars on常連なので私は定期的に見れてるけど関西では相当レアキャラらしい。来てくれ。QUIERO VIP以降の片想いはレビュー書くタイミング逃したのが未だ悔しいくらい本当に好きだ。今一番丸腰で寄り添いに来てくれるリリック。心のバイトしたすぎる。

よく聴いたやつ

  • 中村佳穂『リピー塔が立つ』

  • カーネーション 『Suburban Baroque』

  • スカート『20/20』

  • Rex Orange County「Loving Is Easy」「Sunflower 」『Apricot Princess』

  • NRBQ『High Noon: Highlights & Rarities From 50 Years』


 中村佳穂さんにはまっている。どんな会場・客層にもバッチリ適応してしまうのに全く揺るがない。カバーでも自曲でもピアノと歌だけで、どんなメッセージソングよりダイレクトに「私は私」というぶっとい意志を飛ばしてくる。要はかっこいい。立ち居振る舞いは常にフランクでラフだけど、衣装からリリース方針、MCやツイッターでの言葉遣いひとつに至るまで、かなり厳密なポリシーを組んでいるように思える。その実自分の見せ方にものすごくシビアに気を配っているのでは。名刺渡した時めちゃくちゃ緊張して、話したこともない先輩にいきなりチョコ渡しちゃった女子高生みたくなってしまった。


 Rex Orange Countyにもはまっている。フィジカルリリースしない、シングル曲をアルバムに入れない等これまたポリシーがいろいろありそうなポップ・マエストロ。パンクもラップもしれっとこなして1枚にまとめちゃうポップの定義のゆるさがティーンエイジっぽくていい。まず声が超チャーミングだし。カースト上位じゃないけど友達は多そうなルックスもよき。しかし日本語のレビューが少ない。そのうえどポップやりながら歌詞にスウェアワードをもりもり入れるタイプっぽいので、Google翻訳先生に頑張ってもらわないといけない。

雑記

 Apple Musicでアルバムを開いたとき何曲かについてる★が気になる。頭の数曲についてることが多いから、再生回数で決めてるのか。いい曲に限ってついてなかったりするのはなぜなのか。シャムキャッツのFour O’clock Flowerとか。


 若手SSWの名前を出すときいつも敬称をつけるべきか迷う。バンド名はつけない。大御所もつけない。ソロユニット名もつけない。けど若手の個人名になると途端に迷う。ベランダはベランダ。草野マサムネ草野マサムネ。スカートはスカートだけど澤部さんは澤部さん。認知はともかく話したことがあればさん付けしたほうが気は楽だ。そう自分の気がすむかどうかだけの話です。荒内佑はあらぴー(アイドル枠)。

岩手旅行④ キャリー・ミー

【2日目・9/15】

 6時半ごろ起床。スマホを防水ポーチに入れシャワーを浴びていたらミサイル発射の緊急警報が鳴り肝をつぶす。8時半ごろ、ホテルのレストランで朝食。まめぶ汁の鍋があったけど来るのが遅かったようで、まめぶが一つもないただのおつゆになっていた…。9時半ごろ車に乗り込み、今まで行ったことのなかった小袖海岸へ向かう。あまちゃんで袖ヶ浜と呼ばれていた場所。

 天気は良いけどやっぱり雲が多くて、そのうえ昨日より風が強い。市街地から数分で見えてきた海は濃い青色、いたるところにそそり立つ尖った奇岩に白波が当たっては砕け散る。流しているBombay Bicycle Clubの唸るようなディストーションと甲高いストリングスがマッチしていていい感じだ。しかし滅多に来ない太平洋側なのに、これじゃまるで盆の帰省で見慣れた日本海じゃないか。父はリアス式のうねる海岸線に沿ってグリグリとハンドルを切りながら、子供のころ胸を踊らせたこの海へ向かう景色が、いまだに夢に出てくることがあると話した。やませの影響をもろに受けるこの海の夏は短く、夏休み中の子供たちが泳げるチャンスは決して多くないという。私は昔のことをあまり夢に見ないのだけど、今は忘れている記憶もこれから歳を重ねるうち、そうやって浮き上がってくることがあるだろうか。

 小さな湾の入り口の「じぇじぇじぇ発祥の地*1」と書かれた石碑の近くに駐車。車を降りたとたん強い潮風で髪がボサボサになる。とりあえず小さな湾に沿って、有名な灯台へと続く防波堤添いに歩く。コンクリ壁がところどころ2色になっていて、震災後に直されたところだとすぐにわかる。灯台は残念ながら工事中で近づくことができず、私達は少しの間、規制線の向こうにたむろするウミネコの群れを眺めた。彼らは私達に気づくと一斉に飛び立ち、湾の対岸の車を停めたあたりへ移動していった。大して近づいてないのにな。

 湾の奥には3階建ての小さな建物・小袖海女センターがあって、売店や海女関係の展示や食堂(海女cafe)がある。表に大きなバーベキューコンロがあったけど、時期を過ぎたからか平日だからか、特に何もやっていないようだった。売店には黒光りするでかいコンブやらまんま漁網で出来たボディタオルやら、なんだかいかつい品々が並んでいる。私は大人しくアカモクと小エビのだし茶漬けの素を購入(おいしかった)。コテコテの久慈弁で棒金をやりとりするレジのおばちゃんに和む。屋上で親子岩のワイルドなテクスチャを堪能し、あまちゃんのOPっぽい写真を何枚か撮ってから車に戻った。いつのまにかウミネコ達はふたたび灯台の方へと戻っていた。

 帰りの道中で車を停めて近くの砂浜に降り、つりがね洞という穴の空いた奇岩を眺めた。岩も上に生えている松の木もかっこいい。明治の津波で流される前は実際に鐘型の岩がぶら下がっていたという。かつて父がよく遊んだというそこは、角ばった石だらけのほんとうに小さな浜辺だった。

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*1:よく聞かれるんですが「じぇ!」は小袖の非常に限られた地域のことばなので、父も親類も使いません。

岩手旅行③ ハイパーフォーク

 17時ごろに久慈に到着しホテルにチェックイン。人口3万人台の小さなこの町に、ホテルらしいホテルは2軒あるだけだ。前回私達が泊まり、その後NHK撮影班の拠点になったのはもう片方のほうだった。荷物を部屋に置いてすぐ、地下道を通って駅反対側の市街地へ出る。ただでさえ2階建てばかりの大通りは震災後に電線が地中化され、記憶よりも更にこざっぱりして見えた。空が広い。前夜祭のメイン会場となる道の駅へ向かっていると、ちょうど同じく会場へ向かおうとする何台かの山車に出くわした。炎や波しぶき、鬼、偉人、大仏、虎など様々なモチーフの立体が組み上げられた10tトラック。ひと目見て、(ものすごく気合の入ったデコトラみたいだ)と思った。行き会った中には父の実家まわりの組の山車もあって、私達は思いのほか早く“相談役”の法被を着た叔父と再会した。叔父は最後に見た記憶よりもややふくよかになっていて、東京の美大生である妹と神戸のOLである私を見比べ「きゆさだはあんま変わってねェな」と言った。むむむ。

 久慈秋まつりは前夜祭・お通り・中日・お還りの4日に渡って行われる。私が子供のころに帰省で来ていたのは正月だったから、この祭りに来るのは初めてだ。豪華絢爛な山車を引くスタイルはねぶた以外にも青森周辺で多く、ほどんどは夏なのに久慈はなぜか秋。「お通り」「お還り」という名前からして、迎えるのは祖霊ではなく豊穣の神なんだろうか。開式の辞によると祭りの起源は室町時代にまで遡るらしい。ほんまかいな*1。偉い方々の挨拶が終わったあと「子供たちを前にね!出してやってくださいよ〜」という呼びかけがあったので、何かと思ったら餅まき。そういえば何かにつけて餅まきやるってあまちゃんで言ってたな。

 お通りとお還りでは大通りを運行する全8組の山車が、前夜祭では道の駅に集結して順番にお囃子を披露する。ものすごく気合の入ったデコトラのような山車は8台も並ぶとさらに圧巻、昔のフジファブリックこんなMVあったな。順番が来た組の唄い手の男性が意気込みを語り、若衆の叩く和太鼓に合わせて吟じる。山車の前に立つ子供達のヨイサーノセーという掛け声があとに続き、横笛が鳴る。7,8人で横笛を吹いているのは中学生だろう。するとトラックサイズだった山車の上部が2階建てくらいの高さまでせり上がり、隠れていた主役の人形が現れる。おもむろにブシューッとスモークが吹き上がり、思わずオオーッと声が出る。閻魔、上杉謙信源義家劉備……山車のテーマは組により様々だけど、心なしか中国系が多い。派手だからか。父は「昔、あの飾りが電線に引っかかって停電したりしたんだよな〜」と笑った。おいまさか、これのために電線地中化したわけじゃないだろうな。

 聞けば特に専門の職人がいるわけでもなく、どの組の山車もほぼ手弁当で作られているらしい。スポンサー広告も見えた限りではビールメーカー1社だけだった。実際ほほえましい手作り感がにじんでいる所もあったけど、ほとんどは発泡スチロールやハリボテで出来ているとは思えない。こんな小さな町の小さな地域単位で、こんなに立派な山車が毎年作られているだなんて!特に順位がついたりすることも無いらしいので、マジで意地と伝統と愛で維持されているクオリティだ。ましてやこの祭り、去年は台風災害でまるごと中止になっているから、どの組もきっと例年にも増して気合が入っていることだろう。ああ私の地元のお祭りなんて、規模は大きくても屋台と花火ぐらいしか見るもんないというのに…。次第に日は暮れ、群青の空に照明のついた山車の彩りがきれいに映えている。前夜祭に観光客はあまり来ないそうで、まわりの人混みは法被を着た人とそうでない人が半々くらい。耳に飛び込んでくる久慈弁の訛りは盛岡のそれよりも濃く、だけどどこか柔らかい。お囃子の順に沿ってそれぞれの山車を見て歩いていると、いつの間にか父が屋台で買ったらしいビールをちびちびやっていた。すかさずグイッと一口もらう。缶ビールがこんなにふさわしい場面が他にあるか。

 最後の組までお囃子を見終え、大通りから一本入って父の幼馴染がやっているという店に行った。てっきり居酒屋かと思えば、サーフショップ風のお洒落なダイニングバー。少し前に東京で父とドゥービー・ブラザーズを見たというご夫婦が(来日してたの知らなかった)、特製のおまかせコースで手厚くもてなしてくださった。菊花の煮物やいぶりがっこなど和食もたくさん出てきてどれもおいしい。特にカクテルの種類が豊富で、ノンアルも含め神戸でもあまり見ないくらい充実していた。蟹のトマトクリームパスタや油そばなど、アルコールも炭水化物もがっつり頂いてお腹いっぱい。後々聞いた話では、元は由緒正しい料亭だったのを畳んで今の形に落ち着いたのだという。私達はホテルに戻り、ただ父だけはご夫婦からのお土産だけ置いてすぐ店に戻っていった。確か22時か23時くらいだったか。ベッドに横になると疲れからかすぐに眠気が来て、うっかりメイクも落とさないまま寝落ちしてしまった。

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*1:Google先生によると祭祀行事そのものの記録が残っているのがそのあたりで、八戸の影響を受けて山車が登場したのは少なくとも明治以降と思われるのだそう。

岩手旅行② 午後四時の君

 4号線から県道に入るとだんだん山道になってきた。山あいの葛巻町中心街を抜けて白樺林を走り、平庭高原の駐車場に車を停める。平日とはいえ相変わらずひと気がない。6年前に祖父の初盆で来た時と同じように、白樺林の散歩道をぶらつく。時刻は15時すぎ、木漏れ日の陰り具合からして、ほんのり西日になり始めている気がする。木は細身で背の高い白樺やブナ、草は足首程度のが地面を覆うように生えていて、整備されているのだろうけどやっぱり、西日本の山道みたいに鬱蒼と茂ることはない。白樺自体は県道沿いの方がたくさん生えていたけど、北日本らしいこざっぱりとした森は歩いてこそ気持ちがいい。

 私と妹はそれぞれカメラを構えながら歩き、ほどよく木漏れ日のさすポイントを探ってはシャッターを切る。時おり母の見つけたキノコを一緒に見たり、周りの植物や昆虫について父が話すのを聞いたりする。前回はこの林を歩くだけで終わったけれど、今回はさらに先を行ってみることにした。ゆるやかに上っていく道を10分ほど歩くと、だんだん差し込む光の量が増えてきて、ふいに目の前が開けた。先を行く父と妹の背中が陽の光を受けてシルエットになった時、土まみれのガラスを洗うようににわかに心が澄み渡ったような気がした。自然を相手に前ぶれもなく心が震える瞬間は、相手が大きすぎて言葉も涙も出てこない。理由を言語にする必要もない。ただその一瞬胸を満たした光のことを出来るだけ長く覚えていたくて、帰ってきた今も何度も思い返している。

 ところどころススキが群れる荒涼とした野原に出た。草のそよぐ音と秋の虫の声だけが聞こえる。遠くにぽつりと木箱のようなものが見えたので行ってみると、目の前の山=平庭岳の登山者記帳簿が置かれていた。他に何もないけど一応登山口らしい。やや強い風に吹かれながら、地平に青く連なる北上山地、揺れるススキやアザミの花を眺めていると、数百キロ先に置いてきた日々のことなんて簡単に頭から吹き飛ばせるような気がした。そうやってぼうっとしたり名前の分からない花の写真を撮ったりしているうちに、大きな綿雲で太陽が隠れてしまった。にわかに寒くなったので惜しみつつも退散。

 高原に着く少し前にHYUKOHのアルバムは終わっていて、続いてシャムキャッツをかけていたところだった。車を出したあとまた日が射してきて、流れ出した「Four O’clock Flower」が西日の山村と妙にしっくりはまっていた。もしやとカーナビの時計を見ると、きっかり16時になったところだったので少し驚いた。

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