ベスト・アルバム2017
今年作編
- tofubeats『FAMTASY CLUB』
- シャムキャッツ『Friends Again』
- ベランダ『Any Luck To You』
- Easycome『お天気でした』
- Rex Orange County『Apricot Princess』
- Grizzly Bear『Painted Ruins』
- 台風クラブ『初期の台風クラブ』
- PUNPEE『MODERN TIMES』
- カーネーション『Suburban Baroque』
- サニーデイ・サービス『Popcorn Ballads』
番外
tofubeats『FAMTASY CLUB』についての論考はネット上にものすごくたくさん書かれている。どういう層にこのアルバムが特に響いたのかがはっきり現れている。私もその一人です。対して各音楽メディアのベストにあまり挙げられていないのはまず、人文・思想界隈でのリリックの評価が割合を占めているからかなと思うのが一つ。そして、ヒップホップと歌謡曲の境目にある音楽の扱いがいよいよ難しくなってきているのが一つ。tofubeatsほど際どい立ち位置のアーティストが今後どれほど出てくるかわからんけど、少なくとも減るよりは増える可能性の方が高そうだ。だから、ミューマガで歌謡曲からもヒップホップからもあぶれているのに言及はされている、という完全宙ぶらりんな扱いには、かえって今後を感じてワクワクした。爺さんになったPUNPEEが言うように、ラッパーが朝の顔になる時代が来れば、そいつの出すアルバムはどっちに入るんだろう。
あまり他所で挙げられているのは見かけないけど、特にリリックについてはシャムキャッツ『Friends Again』も頑として譲れない。正直「Coyote」にまつわるタナソウさんのツイート以上のことは言えないのだけど、社会の分断の手詰まり感を、失意や諦念を避けながら、ここまで写実的に描いたアルバムは他にないと思う。「Coyote」以外で言えば、「Funny Face」の“もう一回 ふざけたら ただじゃ おかないよ”、“どうしたいってちゃんと聞いてみても/あまえて くるなら”という一瞬ヒヤリとする歌詞。猫の話にカモフラージュされてこのラインが入ることで、「些細な日常の愛おしさと、それだけ考えて過ごしたんじゃ済まされない状況」がきれいに両立した本当に絶妙なアルバムだと思う。「日常、素晴らしいよね」で済ませないことにはメンバーもかなり気を使っていたようで、社会へのまなざしを忘れていないことが1曲目2曲目の時点で示されているからこそ、3曲目の名曲「Four O’clock Flower」になおさら感動させられる。この3曲目がゆうちょのCMに起用されたのも納得で、とても合っていると思う。近い立ち位置でやや諦念を含んだものとして橋本絵莉子波多野裕文を挙げた。特に「飛翔」「トークトーク」「アメリカンヴィンテージ」あたり。
“社会へのまなざし”という言葉は『FANTASY CLUB』のレビューを書いたときにも意識していた(書いたかも)。今年の俺的一言はこれになるのか。それで言ったら、スピッツ「歌ウサギ」も草野マサムネの社会へのまなざしが反映された、彼らとしてはかなり異質な曲だった。2番サビ“敬意とか勇気とか生きる意味とか 叫べるほど偉くもなく”の二行は、おそらく、強いオピニオンを持たない歌が評価されにくい状況に対する草野マサムネの意思表明だ。とりわけブラックミュージックには大事な要素である“敬意”を入れる思い切りがすごい。論考の方にもそう書けばよかったのだけど、ちょっと思い至るのが遅かった。
過去作編
- Whitney『Light Upon the Lake』(2016)
- Temples『Sun Structures』(2015)
- 中村佳穂『リピー塔がたつ』(2015)
- PSG『David』(2009)
- Judee Sill『Live In London - the BBC Recordings 1972 - 1973』(2007)
- ニューエスト・モデル『ユニバーサル・インベーダー』(1992)
- スピッツ『惑星のかけら』(1992)
- NRBQ『Tiddly Winks』(1980)
- Todd Rundgren『Runt: The Ballad of Todd Rundgren』(1971)
出遅れて後追いで聴いているものと、今聞くとなんとなくいいなと思えるもの。スピッツは、シングル中心の30周年ツアーのセトリに『惑星のかけら』から3曲も入れた。スピッツのメンバーのモードはその時々の新曲よりも、ライブのセットリストやカバー曲のアレンジに現れることが多いと思う(セトリの叩き台決めてるのは坂口さんらしいけど)。ギターのディストーションへの凝りようや「波のり」の比較的思い切ったリアレンジを聴くにつけ、やっぱりポスト・パンク/グランジ回帰なのかなと思う。そっからイギリスのグランジ・リバイバルへの意識を感じたりなんかして。
トッド・ラングレンとかNRBQとか、NAVERまとめとかで特定のアーティストの代表曲が並べられたページを見ると、自分がいいと思うものが挙がっていないことがままある。そしてスカート澤部さんがそれをラジオでかけたりする。今後を占う意味でもこういうアンテナは大事に研いでいきたいと思う。
あいさつ
今年関わってくださったライター講座の面々やミュージシャン、各メディアの方々、お世話になりました。そして一つでも記事を読んでくれた方、ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。
来年はもっと本を読みたい。映画も見たい。インプットの量を増やしたいのに今の生活サイクルだと睡眠時間を削るしかなく、ちょっと悩んでいます。時間の使い方が効率的でないのは明らかなんですが、それは人生半分ぐらいずっと思いながらも出来ていない事なわけで。なので現状図らずも、ただ“決意を新たにする”だけになってしまう時がよくあります。それは一番無意味なので、どうにかして具体的かつ強制的に自分を駆り立てられるような作戦立てをしなければならないんですが。極論しか思いつかない。
夏に気合を入れてスピッツをやったあたりからコンスタントに書く準備が出来て、それから一応、およそ月1本のペースで続いています。あれこれ考えすぎていつも行動が遅くなる性分なので、来年はネガティブなことをあまり考えず、場数を増やしていくことを第一にやっていきたいです。