きゆさだのブログ

ワイルドサイド抜け作

日記

昨日、インソールがボロボロになった靴をミスターミニットに持っていったら、それ以前に右足のつまさきの底がすりきれて大きくひび割れていたことが判明。言われるまで気づかなかった。道理で右だけ雨でぐしょぐしょになるわけだ。まだ半年しか履いてないのに。

発言小町によれば、4000円程度の靴を毎日履いていれば半年でダメになるのが普通らしい。とすれば、私は靴が数年保つのが当たり前だといつから思っていたのだろう。大学時代履いていたコンバースの感覚か、それとも親の感覚か。オトナ女子の諸先輩方は2〜5万円くらいの靴を何足か使いまわして数年保たせているらしい。中敷と靴底の間で人知れずボロボロになっていたインソールは、紙パルプを固めただけのものだった。

 先日いろいろあって入っていたプロジェクトを抜け、年末まで続く予定だった残業がなくなった。昔からやりたい案件だったので悔しいけれど、この調子では続けても保たなかったろうと思う。ここ数ヶ月社内ではどんどん味方が減っていくような感覚すらあったけれど、近くの席の先輩からはこっそり励ましの言葉をいただいた。でもそれだけだから、実際そうかもしれない。どこからどう間違えたのか、よくわからない。

定時であがって元町のドクターマーチンへ向かう。いちばんベーシックな黒い革靴を買うつもりでいたが、いつものようにスエードのものが目に留まる。もう廃盤になってしまうという。普通の革靴より柔らかく手入れも楽だというので、軽く試着して購入。レジで店員さんが「ルミナリエ見に行かれましたか?今年は一番電飾が多くてきれいらしいですよ」という。神戸に住んで4年になるけど、ルミナリエに行ったのは子供の頃の家族旅行1回きりだ。

大丸前の交差点に出ると、広い道路は看板に沿って歩く人ごみで川のようになっていた。看板には「ルミナリエまであと30分」とある。向こう岸の森谷商店を目指して渡ったけど、揚げたコロッケはちょうど終わってしまったところだった。なんとなく気持ちを持て余し人の川に混ざってみたら、なかなか抜けられそうにない。ルミナリエ、平日だし見ておくべきだろうか。見るなら一眼レフ持ってきたかった。これから一人でルミナリエを見たとして、自分がどういう感情になるのか想像がつかない。中敷きを2枚入れてきた例のボロボロの靴でだんだん足がしびれてきている。さっきから小雨がぱらついている。ふと「出口」と書かれた柵の抜け目を見つけたので、列を逸れてそちらへ抜けた。そこは中華街の入り口だった。

さっきから私は、イヤホンで折坂悠太の『平成』を聴いている。「揺れる」のメロディとともに、小籠包や串揚げが積み上がった屋台の間、立って食べる人々をよけて縫うように歩く。こんなにたくさんの食べ物が並んでいるのに、なぜだか匂いはしてこず、腹もあまり減ってこない。筆文字のネオンや赤ちょうちんの光が濡れた路面に反射し、ついでに私の眼鏡についた水滴も、視界のすみで静かにぼやけて光っている。傘はないし、さすほどでもない。

中華街を抜けるとにわかに暗くなった。古本屋の1003(センサン)に行ってみたけど定休日だった。戻る。

さいころ、たぶんルミナリエと同じタイミングで中華街のレストランに入ったことがある。妙に小骨の多い鶏のから揚げを食べて店を出たあと、それが蛙だったことを両親に知らされ泣いた。でもおいしかった。あの店はどこにあるのだろう。
一昨年、父が出張で来たときにも中華街の別のレストランに入った。すごく空いていた。みな路上で食べるので中にはあまり入らないのだ。味は普通だった。
中華街の外にも旨い中華屋は結構あり、それを知っている神戸市民はふだんあまり中華街に行かない。でもせっかくなので、唯一ソラで名を覚えている豚まん屋に寄ろうと思った。

ふたたびほの赤い街を歩く。ルミナリエよりこちらの方が、今の自分に合っていると感じる。歩いているとたまに雑貨屋の前を通る。強い白熱球で照らされた屋台の合間、奥まった薄暗いガラス戸の中に、年季の入った中国雑貨が積み上がっている。通りの赤く明るい虚飾は青白い蛍光灯の前では勢いをなくし、無機質な営みの姿がしっかりとのぞいて見える。小さい頃この通りに感じたファンタジー、異国情緒はもう見出だせないけれど、赤塗りのコンクリ壁や手書きの鍼灸の看板、屋台に掲げられた写りの悪い料理写真には、観光の名のもとで複雑に皺を刻んだ、この通り特有のままならなさがにじみ出ていた。すこし愛着が湧いた。

広場の前で老祥記の列に並んでいると、お姉さんが注文を取りにやってきた。1つだけ持ち帰るつもりだったが、1週間くらい保つというので3つ注文。持ち帰りなのでほとんど待たずに受け取れたけど、ここで立って食べたほうがオツだったかもしれないと思う。

冷えきった肉まんの袋を持って歩いていると、「ゴマ団子揚げたてだよー」の声がする。先ほどの立ち食い欲を果たしにひとつ買い、閉店したのかつぶれたのかわからない店のシャッターの前で慎重に頬張る。それでも熱さのあまりハフハフやっていたら、さほど寒くない曇り空にも白い息が上っていった。

目の前では、ばったり数年ぶりの再会を果たした夫婦が2組、驚きと喜びの入り混じった声で話していた。何年ぶりかももうわからんくなってしもうたわ。今は神戸ですか?いや、西北です。

アルバム最終曲「光へ」は、ちょうど元町駅の構内に入るタイミングで終わった。直前にふと西の空を見ると三日月だった。